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「竜舌蘭の咲く時」を聴く

めずらしきこと。
1月21日は,俳優・垂水悟郎の忌日である。
民藝の舞台俳優だった垂水悟郎だが,ラジオドラマへの出演もわりに多い。映像作品では悪役の多い俳優なのだが,ラジオドラマでは絶望的な人生を送っている男の役を淡々と演じるというものが多いように思う。
それらのうち,特攻隊員の生き残りとして虚無感にとらわれた男と特攻基地のある漁村の住民たちとのふれあいを叙情的に描く三浦哲郎書下しの「竜舌蘭の咲く時」を聴いた。

竜舌蘭の咲く時
三浦哲郎:脚本,助川敏弥:音楽.
竹内日出男:演出.(NHK東京)
出演:垂水悟郎,山口美奈子,小川真司,大塚道子,黒木憲三,若林彰,草野大悟,日向照,久保明井上真樹夫,田村錦人,古賀浩次,及川ヒロオ;ユニオン・プロ. 演奏:洪珠恵室内楽団.
初放送:1966-08-14{芸術劇場}, 再放送:1967-04-02{芸術劇場}/1984-02-26{R2ラジオ名作劇場}.
モノラル 45分
ラジオ・テレビ記者会選考3位
生き残った元・回天魚雷艇特攻隊員が海軍基地のあった漁村を20年後に訪ねて追憶に浸る。50年に一度の開花を終えて枯れてゆく竜舌蘭を死に花にたとえるとともに,長く生き延びる植物と国のために若い命を投げ出す特攻隊員を対比させて絶望的な日々をふりかえる。
国のために命を捧げたはずが敗戦で生き延びたことに傷つき,荒れた日々をへて佳き女性との平穏な生活を送りながらも,戦争体験は重くのしかかっていた。暗い記憶をふっ切るために竜舌蘭の花を見て,こだわり続けてきた自身の「戦争」をもう一度自分の眼で確かめ,それを乗り越えていこうとする。重く暗いテーマだが,雨上がりの空を望むような気持ちにさせる傑作である。

手持ちの録音から,垂水悟郎出演ラジオドラマのリストは次の通り。