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mezalaのブログ

俳優・米倉斉加年氏の逝去を悼む

かなしきこと.
朴訥とした青年からアクの強い悪役まで,幅広い演技で異彩を放ってきた俳優の米倉斉加年氏が昨日急逝されたという.腹部大動脈瘤破裂とのことで,あまりにも急に逝ってしまった.心からご冥福をお祈りします.

米倉さんを最初に意識したのは,連続テレビ小説の「あしたこそ」で主演の藤田弓子の夫役だった.夫役そのものより,プロポーズのシーンが非常に印象に残っている.
藤田扮する主人公の見合いの日の朝,突然「せつこさんをお借りします」と家族に告げてお茶に誘い,「見合いなんか止めちゃえよ」といきなり言い出す.あまりにも唐突で理不尽な言い様に藤田は反発するが,米倉は「だってキミはボクのお嫁さんになるんだもん」.なんて格好良いプロポーズなんだ,と子供心に思った.絶対にこんなプロポーズをしようと思った.しかし,妻は見合いなんかしなかったし,そもそもこんな格好良いプロポーズをするような機会はなかったのである.
大河ドラマでも重要な役どころが多かった.平将門を神格化して民衆を支配しようとする国司では,にこやかに笑っているようで目が笑っていなかった.江戸開城後に勝海舟に会いに来たが官軍の格好をしていて門前払いされたのにうらむことなく,翌日わざわざ着替えて会いに来た佐久間象山は剽軽で何とも言えない親しみやすさを醸しだしていた.
帰ってきた寅さんが喋っているのを意に介さず黙々と沢庵をかむ宇宙物理学教授も観客を爆笑の渦に巻き込んだ.青年将校をマークする実直な憲兵役で握り飯を児童らに与えたり,単身で連隊を止めようとして殉職し観客の涙をさそった.
とにかくどんな役をやっても,新たな人物像を創造してみせたのは印象ぶかい.
ラジオドラマでも独特な台詞回しで存在感を発揮した.以前,当ブログでも取り上げた「潮騒の彼方から」における海と向き合う年老いた漁師の演技の臨場感は忘れることができない.「うしろすがたのしぐれてゆくか」の山頭火も苦悩と享楽の生き様を深く表現したものだ.書いても書いても書ききれないほど,鮮烈な印象を残す演技ばかりである.

手持ちの音源及びデータから,米倉斉加年出演ラジオドラマ一覧