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mezalaのブログ

「なだれ」を聴く

 めずらしきこと。
 今日は,俳優・小沢重雄の忌日である。
 小沢重雄は,木下順二が主宰した劇団ぶどうの会に参加し,山本安英らと長く行動を共にしていた,民話劇をこよなく愛した俳優である。
 ラジオドラマの出演は,木下順二の戯曲「子午線の祀り」のラジオ版のほか,何本もある。
 その中から,劇作家・真船豊がラジオのために初めて書き,再制作時に小沢重雄が主演した「なだれ」を聴いた。

なだれ (再制作版)
真船豊:脚本.田辺春男:演出.(NHK東京局制作)
出演:小沢重雄,北城眞記子,鈴木弘子内山森彦,及川ヒロオ;ユニオン・プロ.
[初放送:1935-03-05],再制作:1966-03-02{名作劇場},1983-04-10{ラジオ名作劇場}
モノラル 40分

 物語は山の猟師たちの確執を描くもので,猟師たちの争いの場を雪崩が襲うというクライマックスの迫力が素晴らしい。荒っぽい猟師たちの殺伐とした勢力争いのなかに,鈴木弘子のみずみずしい声がさわやかに響いて清清しい余韻を残す名作である。ちなみに鈴木弘子はアニメーション「サイボーグ009」の003フランソワの声をあてた女優だ。

 小沢重雄の主な出演歴は,わかる範囲で次のとおり。

 小沢重雄は舞台俳優として活動するかたわら,「浦和むかしむかしの会」を主宰して,地域の民話を語り聞かせる「語り部」としても長く活躍していた。

 個人的な思い出もある。
 浦和むかしむかしの会の公演が羽生市で行われた際,小沢さんの経歴など何も知らずに,なんとなく気が向いて出かけたことがあった。会の名称からもっと素人っぽい内容かと思い込んでいた自分は,生の迫力に圧倒されてたいへんな感銘を受けた。
 その後,職場の広報誌の編集委員をしていたときに,ちょうど民話の特集を組むことになり,民話の語り部として活動する小沢さんの詳しい経歴を伺おうと,著書にあった浦和むかしむかしの会の事務局に電話をかけた。紹介の掲載許可を得て色々と話を伺いながら,小沢さんご本人が電話に出られていることにようやく気付いて慌てた自分にやさしく接してくださった。
 さらに1年ほどたった頃,浦和市(当時)で公演が行われる際に,民話特集号を受付で配布させていただくことをこころよく承知してくださったうえに,当日のチケットまでくださった。そういうつもりはなかったので固辞すると,「まぁ,そんな固いことをおっしゃいますな」と言ってくださったのである。
 著名な劇団に属していたことをおくびにも出さず,公演中の私的録音などもまったく気になさるふうもなかったのだが,後に小沢さんの偉大さを知るに至って,民話を愛し,地域の交流に晩年をささげた小沢さんの真摯な姿勢を改めて思うのである。