目ずらし記事

mezalaのブログ

かたくななアサリたち

 めずらしきこと。

 海水の塩分濃度は3%だという。しかし,きっちり水と塩を量って塩水を作るマニュアル人間は決していないだろう。かと言って,適当に味見もせずにすると,アサリはかなくななまでに閉じたきりうんともすんとも言わないのだ。このあたりは加減というところなのだろうが,われらの世界においても,このあたりの機微というかタイミングというか,なかなか難しい。
 言った手前が引っ込みがつかないとか,頑張っているのに信頼を得られないとか,そんな時に,繊細な気を張りつめて健気にふるまうとか,たとえ独りでも固く意志を貫き通す決心をするとか。
 一言ではとても表現不能な大変なことなのだけれど,それは若いときの試練でありまた特権であって,ただひたすらに自らの信じる道……決して真っ直ぐではない紆余曲折の隘路である……を突き進むことに躊躇するなかれ,としか言えないこともある。情けないことに,自分は若くも美しくもない貧困な精神を面相に貼り付けて,日々をしがなく生きていく者に成り下がっているのだから。
 範たることができないのなら,せめて迪をつけてやりたいと思うのであるが,やはり力不足だろうか。最も甘い時代をのらくらと生きて,まるで運がよかったと思い込むような勘違いをし続けているだけでは,踏み台にもなれはしない。
 かたくななアサリたちを前に頓珍漢な妄想にふける父を尻目に,倅は蒸しあがった貝たちに手を合わせていた。