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mezalaのブログ

「マイナス・ゼロ」を聴く

 めずらしきこと。
マイナス・ゼロ (集英社文庫)
 今日は小説家・広瀬正の忌日である。47歳という若さで亡くなったため,作品の数は多くないが「マイナス・ゼロ」という傑作をはじめ,3度も直木賞候補になった。
 「マイナス・ゼロ」の映画化も企画があったらしいが,戦前の銀座のセットを製作するのが困難であったため,断念されて脚本が棺に納められたという逸話がある。
 幸い,セットを想像力で補えるラジオドラマは製作されているので,久々に聴いてみた。

マイナス・ゼロ
広瀬正:原作,西澤實:脚色,南安雄:音楽.
野村徳七:効果,今城正二:技術,三浦達雄:演出.(NHK東京)
出演:小林昭二加藤道子,田畑猛雄,宮田圭子.
本放送:1973-08-04,再放送:1989-06-04.
モノラル 52分
 従来,タイムトラベルものといえば,歴史が変わるような行いをしてはいけないことになっているのが普通だ。特に,過去の歴史を変えてしまうことは,その後の歴史が変わってしまうことになるので,厳に慎むべきことになっている。
 しかしこの小説では,まさに goto と loop を繰り返して,年齢の異なる同一人物がそれと知らずに交流したり,婚姻したりする。しかも記憶喪失という究極のタイムスリップを駆使して,複雑な糸のからまりのように人間関係を展開させるのである。実に面白い。
 ラジオドラマではその糸のからまりを解きほぐす展開を軸にし,ノンストップ脳内サスペンスとして絶妙なまとめ方をしているので飽きさせることのないスピード感を出している。
 個人的には,原作の昭和初期の風俗や世相など実に細かい描写が非常に好きなので,そういった描写のないところが唯一の不満でもあるのだが,贅沢は言うまい。
 さて,主演の小林昭二といえば,ウルトラQの「2020年の挑戦」から科学特捜隊のキャップ,仮面ライダーの「おやっさん」など,日本の特撮シリーズに忘れることのできないキャラクタであるが,ラジオドラマの出演も数多い。手持ちの音源を検索すると8作品マッチした。