めずらしきこと。
11月19日は,歌人で劇作家でもある吉井勇の忌日である。吉井は伯爵家に生まれ,和歌の道にすすんだ異色の華族である。吉井は東京生まれながら京都をこよなく愛し,多くの歌を残していて,そんな吉井を偲ぶ「かにかくに祭」というのが毎年行われているという。
また,誰でも一度は耳にしたことがあるであろう「ゴンドラの唄」の作詞者でもある。ゴンドラの唄は,黒澤明の映画「生きる」において,志村喬がブランコを揺らしながら歌ったシーンがたいへん有名なので,それが目に浮かぶ人も多かろう。
吉井はラジオドラマの脚本も書いていて,京都の舞妓の置屋に生まれた娘を主人公にした「春遠からじ」という名作が残されている。自分の生い立ちに抵抗するように大学では弁論部や劇研といった活動にうちこみ,前衛画家の恋人を持つ女学生の京娘特有の一途さを描いた情感あふれるドラマである。