目ずらし記事

mezalaのブログ

「来たか長さん待ってたホイ」の謎

めずらしきこと。

ラジオドラマの長寿番組「日曜名作座」について調べていたときのこと。

1957年7月21日の「無法松の一生」第2回においては,新聞ラジオ番組欄の記載によると主演の森繁久彌加藤道子のほかに『長谷川一男他』と告知されている。日曜名作座は一貫して森繁・加藤の二人芝居のはずだから,記載された〈長谷川一男〉は謎である。少し調べたくらいでは長谷川一男という俳優の名は出てこない。もちろん,長谷川一夫の誤植である可能性も疑われたので,長谷川一夫Wikipedia記事を読んでみたのだが,もちろんラジオドラマに出ているなどという記載はない。確かにそれはありえないだろうと思われるわけだが,ふと違和感を覚えた。

脇道に逸れるようだが,かつてNHKの超人気人形劇「南総里見八犬伝」を見ていたときのこと。たぶん犬山道節の台詞だったと思うのだが,「来たか長さん待ってたホイ」というものがあった。ちょうど芝居好きの母が炬燵に一緒に入っていて,「昔,長谷川一夫林長二郎という芸名だったころに,出番を待ちわびたファンが『来たか長さん待ってたホイ』と言ったのだ」と教えてくれたのだった。それ以来,そのとおりに思い込んできたわけだが,Wikipediaの記載にはこの俗言が一切出てこない。

国立国会図書館レファレンス協同データベースにおける町田市立中央図書館の事例で「隠語辞典」「隠語大辞典」の記載から,『長さん』を「客,買手」のことと回答している。

謎だ。

(2023-03-15 追記)
としき兄のコメントにあるブログ「日本語はやっぱり、超、超おもしろい!」(http://nihongohaomosiroi.seesaa.net/article/135338027.html)をたよりに原資料(『俚謡集拾遺』(高野斑山,大竹紫葉編 三一書房 1978/六合館(1915)刊の覆刻)の巻末に収録されている付録「明治年間流行唄」)に当たったところ,確かに「地方唄(明治二十年代)」章,「追分節」節の第2項(付録p32-33)に該当の記述を確認。「碓氷峠の権現様よ、私が為めには守り神、スイ、来たか長さん待つてほい、お前ばかりが可愛うて、朝越なろかいなあ」。(上記ブログの記載はわずかに転記ミスあり。)
さらに『流行唄変遷史』(藤澤衛彦著 有隣洞書屋 1914)を確認予定。
調査は続く。