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mezalaのブログ

漫画家・水木しげる氏の逝去を悼む

かなしきこと.
漫画家の水木しげる氏が今朝亡くなられたということだ.93歳の大往生と言えるのかもしれないが,元気なご様子が報じられてきたので,あまりにも突然で言葉を失った.
心からご冥福をお祈りします.

水木さんは自分の最も敬愛する漫画家であり,一時期は新刊が出るたびに購入していたということもあって,我が家の本棚には多くの著作が並んでいる.近年,大全集の刊行が始まっているが,揃えたいとは思うものの蔵書との重複が多すぎて手が出なかった.
思い起こせば,「水木しげる初期作品集」を中野書店が復刻するという新聞広告を見て,神田神保町の中野書店まで買い出しに赴いたことがあった.これは1980年に限定500部で刊行されたものであり,外箱や解説が付くなどしっかりした作りのものであったので,よい状態で所蔵している人も多かろうと思う.
初期作品集も大事なコレクションではあるが,東考社という埼玉県は毛呂山町の小さな出版社から出版されていた桜井文庫というシリーズが自分にとっての一番の宝かもしれない.文庫サイズで紙質も保存に向かないタイプなので,あまり紫外線に当たらないようにしてきたのだが,だいぶ色あせてしまった.東考社はかつて貸本漫画を製作し,それが下火になると貸本時代の漫画の復刻を手がけていた.自分のように「テレビくん」以降の世代にとっては,貸本漫画時代の水木さんの貴重な著作が読めるというのは,非常にありがたかったのである.今でこそ貸本漫画時代の復刻は盛んに行われているが,当時は滅多なことではお目にかかることができなかったからだ.
水木さんの漫画というと,「総員玉砕せよ」「昭和史」といった片腕を失う凄惨な戦争体験に基づくものも多く,自分の思想的立場にも強い影響を与えていると思う.幻想と怪奇も現在の自分の興味を形成する重要な因子であるし,「なまけ者になりなさい」の色紙を額に入れて飾るほど,その異色の人生訓に心酔してもいる.
おそらく,自分にとって最も影響の大きかった人であることは間違いないようだ.
水木さんにまつわる一番の心残りは,1976年にNHKの文芸劇場で放送されたラジオドラマ「虹の国アガルタ」を聞き逃したことだ.これは,1988年にラジオ名作劇場で再放送されたにもかかわらず,何の都合だったか聴くことができなかった.緑魔子常田富士男岸田森といった妖しすぎるキャストも無念を倍増させるのである.