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「笹まくら」を聴く

 めずらしきこと。
笹まくら (新潮文庫)
 丸谷才一文化勲章受賞が決まったことを祝って,ラジオドラマ「笹まくら」を聴いた。

笹まくら
丸谷才一:原作,須藤出穂:脚色,宇野誠一郎:音楽.
大八木健治:効果,伊藤孝久:技術,香西久:演出.(NHK東京局制作)
出演:日下武史此島愛子桜田千枝子,下元勉,桑山正一,山谷初男,園田裕久,岩名雅記,梅本滋美,五十嵐輝洋;他.
初放送:1973-02-10{文芸劇場},再放送:1984-09-30{ラジオ名作劇場}.
モノラル 53分
 大学庶務課の浜田課長補佐は,徴兵忌避者としての過去があった。杉浦健次と名乗り,技術者や砂絵屋といった商売をしながら,日本中を転々と逃げまわっていた。「笹まくら」とはかりそめに寝る旅の宿り,転じて,がさがさする音が不安をつのらせる旅寝生活をいう。戦後の現在と戦時中の過去が間断なく交互に登場する形式により,徴兵忌避者のびくびくした内面を戦後の日常に投影するように描く。
 昔の恋人だった女の死亡通知から始まり,過去の自由のない世界の記憶をたどり,壱岐の中の島での出会い,そして恋人との危険な逃避行,宇和島の女の実家で終戦を迎え,そこに突然訪れる愛の破局という過程のなかで,自分の信念を通して生きていた青春時代は,現在よりもある意味幸福だったのではないかと思われてしまうほど,現代の混迷の時代は生きづらいのだった。
 丸谷才一は,1967年に「笹まくら」で河出文化賞,1968年に「年の残り」で芥川賞を受賞した。美しい日本語にこだわり,歴史的假名遣による表現を通している。