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mezalaのブログ

藤水名子「王昭君」

めずらしきこと。

王昭君 (講談社文庫)

王昭君 (講談社文庫)

この作家の小説を読むのは,すばる新人賞を獲得した「涼州賦」と「色判官絶句」以来だから久々である。小説は文庫になってから読むことにしているので書店の文庫本棚しかじっくり見ないのだが,田舎の書店では全点並ぶわけでなし,滅多にお目にかかれない名前であることは承知している。だが,武侠小説の先駆けとも言える涼州賦でその名を脳に刻み付けられたわりに,なかなか文庫を見かけない。藤沢周平の並びで探しやすいはずなのだが…。ネットで調べてみると,意外にたくさん出ていたのでまとめ買いしてみた。
コバルト文庫が数冊。そうか,そっち(何処)の方向に行ってしまったのかと思いきや,歴史小説も何点か書いていることを知る。そのうちの1冊である。(考えてみれば,このジャンルで一大グループを形成している人たちは伝奇系だったし,歴史小説との境もあるような,ないような…。)
さて王昭君といえば,従来は宮廷画家に賄をしなかったために容色を落として描かれたことで遠く塞外の異民族に輿入れさせられた悲劇の宮女という,絶対的な漢人の観点しかなかったように思う。だが,おそろしく退屈な宮廷生活よりも自由な生き方を望んだ奔放な女性として描かれ,宮廷画家の方も王昭君の不思議な魅力にとりつかれて他の後宮の女性たちとは違った描き方をしたために却って皇帝の目にとまってしまったというのである。固定的な見方を排除し,魅力多い女性として描いたことで,のちに異民族からの尊崇を一身に受けることになるその生涯をより強く美しいものとして読み手を納得させるものとなっている。
快作と言えるだろう。